Haruma Kikuchi

Commentaries

Christophe Charles

小柳淳嗣、菊地玄摩、藤野隆俊と工藤雅之が、「pico pico stomachs」として活動を始めたのは、武蔵野美術大学映像学科に在籍していた頃です。2002年から、本格的に音楽や映像を制作し、ライブ活動、イベント企画を中心に活動を続けてきました。現在、ミュージシャン、映像作家のみならず、パフォーマンス・アートやコンテンポラリー・ダンスの作家とのコラボレーションを多数行い、また「ONZO」という組織としてイベントを企画し、CDやビデオも制作しています。

4人組の最初の活動として、ku/maという自作ソフトウエアを用いたパフォーマンスをし続けました。コンピュータの画面を投影することによって、そのシステムの仕組みをライブ会場で観客にも見せながら、視覚的にも聴覚の面でも、複雑なリズムパターンを組み合わせながらライブ演奏を行っていました。その後、市販のソフトウエア(MAX/MSP、REAKTOR、LIVEなど)も使用し、「lap top orchestra」(ノートパソコンを使用する音楽団)という形で、即興演奏の実験も多数を行ってきました。一つの特徴は、まず実験的な性質を持つということです。内容に関する事前の打ち合わせを必要とせず、むしろその場で、一度しか行うことができない音楽を、真の意味の「ライブ」を目指し、実現しています。その前提は、まず技術的な能力と、それから音楽的なセンスにありますが、また、「deep listening」という、アメリカの作曲家 Pauline Oliveros氏、日本の藤枝守氏や大友英良氏が定義した意味での「深い聴き取り」の理解力と能力にもあります。

「pico pico stomachs」の「単独」活動以外は、数多くのコラボレーションも行っています。「nu:」ユニットとして(多摩美術大学の久保田晃弘教授と氏のゼミの学生とのコラボレーション・プロジェクト)、映画監督スタン・ブラケージへのオマージュ・シリーズ(「Brakage Eyes」)や、フランスESA(エクサンプロヴァンス高等芸術学校)とのネットワークコラボレーションもあります。「nu:」のメンバーは毎回10人以上で、「ensemble」または「orchestra」というスケールのものですが、参加者全員は「ソリスト」として参加しているため、全体のバランスを保つのは重大な問題になります。そこで「pico pico stomachs」の、グループとしての統一能力は重大な役割を果たしていると言えます。

シンガポールのビデオ作家カイ・シン・タン氏とは、パフォーマンスで、広島の原爆ドームの前で撮った、小泉総理のスローモーション映像に対して、「pico pico stomachs」の緊張感の溢れた、静かな音響は記憶に残りました。その際も、彼らの、音と映像の関係に対する経験や知識、それから、重い内容にも関わらず、その映像に対する即時反応、即時判断の能力は感じられたと思います。

ここ最近の「pico pico stomachs」新たな展開として、ダンサーの小玉芳一氏とのコラボレーションがあります。小玉氏が「sal vanilla」というダンスグループのメンバーだった頃、私も東京やベルリン公演に参加しました。「sal vanilla」の独特な身体のアプローチ、ソロの動きとグループの動きの関係、また踊りと映像と音響の同時化(synchronisation)の面でも、表現力の面でも、非常に精密でパワフルな能力があり、sal vanillaの影響を受けた小玉氏のグループ「AURORA」にもそのような才能を感じています。細かく打ち合わせをすることで構成がきちんとしていると同時に、「pico pico stomachs」の即興演奏の能力が加わることで、かなり充実したコラボレーション作品が作り上げられることを期待します。

様々な面に於いて、国際的な活躍が期待できるグループであり、今後の活動をたいへん楽しみにしております。

2005年2月10日
クリストフ・シャルル
武蔵野美術大学 造形学部 映像学科助教授
http://home.att.ne.jp/grape/charles/




久保田晃弘

pico pico stomachs は、武蔵野美術大学映像学科出身の藤野卓俊・小柳淳嗣・菊地玄摩・工藤雅之の4人からなる電子音響ユニットである。

僕が彼らと始めて出会ったのは、2003年4月に多摩美術大学で行われた、sine wave orchestra のオープン・パフォーマンスであった。この時pico pico stomachs は、彼らの指導教員でもあるクリストフ・シャルル氏(サウンド・アーティスト)と共にゲストアーティストとして演奏し、その叙情的でしなやかなラップトップサウンドは、周囲に新鮮な驚きと喜びを引き起した。

この時の出会いがきっかけとなり、 pico pico stomachs との共演は「nu:」という武蔵野美術大学と多摩美術大学の、音響系の学生たちによる継続的なコラボレーションへと発展していった。

2003年末から2004年にかけて、米国の実験映像作家スタン・ブラッケージのサイレント映像をテーマとして、「nu:」のメンバー総勢12人による大規模な音響映像ラップトップパフォーマンスを、東京のアップリンク・ファクトリーと仙台のメディアテークで行なった。

幾度となく同じステージに立ち、共演する機会を通じて感じた pico pico stomachs の素晴しい点は、まず4人のメンバー全員が非常に良い耳を持っている、ということである。とかく機材をコントロールし、音を出すことのみに囚われがちなラップトッパーの中で、彼らは常に周囲の音を良く聴き、一人一人がその中での自己の役割を考えながら演奏する。その結果、pico pico stomachs のアンサンブルは場の状況に呼応した柔軟性と、豊かな奥行きを獲得する。

pico pico stomachs は単なるパフォーマーとしてだけではなく、ONZO というイベント開催、パッケージ/アーカイブ制作のための団体も組織している。音楽/音響のみならず、映像、パフォーマンス、舞踏といったさまざまなジャンルを自由自在に横断する彼らの活動から、今後も目を離すことができない。

2005年1月20日
久保田晃弘
多摩美術大学 情報デザイン学科 情報芸術コース教授
hemokosa.com