ライブ・パフォーマンスに用いられるのは、2台のPowerBookコンピュータである。1台は音響を出力するためにスピーカー・アンプへと接続され、1台は映像を出力するためにビデオ・プロジェクターへと接続されている。
音響用のPowerBookにはドイツのAbleton社の「Live」がインストールされ、ユーザーインターフェイスのマトリクス上にフィールドレコーディング、デジタル・シンセサイズによるクリックやベース音、ピアノやギターのオーディオ・サンプルが登録されている。デジタル・サンプラー/シーケンサーである「Live」によって、それらのオーディオ・サンプルをいつでも任意のタイミングで再生し、ミックスすることができる。
映像用のPowerBookには、スイスのGarageCUBE社の「modul8」がインストールされている。「modul8」は映像版のデジタル・サンプラーというべき機能に特化したソフトウェアで、デジタルムービークリップのストックを管理し、任意の組み合わせの複数の動画を、リアルタイムに合成し、ビデオ信号として出力することができる。
音響、映像のパフォーマンスは、これらのソフトウェアの操作を通じて、再生・ミックスされたオーディオと動画の総体として実現される。きっかけとなる最初の(複数の)クリップが再生された瞬間から、どのクリップを何秒後に停止し、その次にはどのクリップを登場させるか、という不断の選択が開始される。オーディオ・サンプル、ムービー・クリップは、再生速度を増減させることによって、ムービーやオーディオが持つ運動性を伸縮させることができるため、変化が必要な場合は再生速度の変更や、デジタル・エフェクト(ディレイ、リバーブ、パンニング、階調シフト、比較演算合成、拡大)を用いることがある。
「不断の選択」は、「観ること」と「聴くこと」に基づいている。素材の再生によって音・映像が構築されるまで、それがいかに「響くか」が想像されることはあっても、実際に知られることはない。次に再生されるべき音と映像は、「観ること」と「聴くこと」を通じて音と映像が「響いた」のちに、(ある予測と音楽・映画としての構成への配慮を、避けがたく伴いながら)見出されるのである。